平成29年5月9日(火)に「既存住宅状況調査技術者講習会」が開催されました。
これまでは一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会発行の「既存住宅現況検査技術者」が、インスペクションの担い手と言われていましたが、平成30年4月に施行される改正宅建業法における建物状況調査(インスペクション)では、建物状況調査(インスペクション)の担い手が「既存住宅状況調査技術者」であるとされ、新たに始まった「既存住宅状況調査技術者講習会」を受講し、講習後の考査に合格した建築士が建物状況調査(インスペクション)の担い手となります。
既存住宅の流通時に建物状況調査(インスペクション)が欠かせないプロセスです。本ページでは既存住宅状況調査技術者講習会及び既存住宅現況検査技術者についてご説明いたします。
既存住宅状況調査技術者講習制度について
既存住宅状況調査技術者講習制度の背景
平成28年3月に閣議決定された「住生活基本計画(全国計画)」において、既存住宅が資産となる「新たな住宅循環システム」を構築するため、建物状況調査(インスペクション)における人材育成等による検査の質の確保・向上等を進めることとされました。
平成29年2月に創設した既存住宅状況調査技術者講習制度を通じて、既存住宅の調査の担い手となる技術者の育成を進めることにより、宅地建物取引業法の改正による建物状況調査(インスペクション)の活用促進や既存住宅売買瑕疵保険の活用等とあわせて、売主・買主が安心して取引できる市場環境を整備し、既存住宅流通市場の活性化を推進していくことが本講習制度の目的となります。
既存住宅状況調査技術者講習制度について
既存住宅状況調査技術者講習制度は、一定の要件を満たす講習を国土交通大臣が登録し、講習実施機関が「既存住宅状況調査技術者講習登録規程」に従って講習を実施する制度です。
「既存住宅の調査に関する手順、遵守事項、調査内容等の講義を行うこと」、「HP等における修了者等の情報の公表、相談窓口の設置等を行うこと」などの要件が定められています。
登録講習の実施機関一覧
登録番号 | 講習実施機関の名称 | 登録年月日 |
---|---|---|
1 | 一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会 | 平成29年3月10日 |
2 | 公益社団法人日本建築士会連合会 | 平成29年3月27日 |
3 | 一般社団法人全日本ハウスインスペクター協会 | 平成29年5月26日 |
4 | 一般社団法人 日本木造住宅産業協会 | 平成29年5月30日 |
5 | 一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会 | 平成29年6月9日 |
修了者による調査の実施
既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)は、国が定めた「既存住宅状況調査方法基準」に従い、既存住宅の調査を行うことになります。
※既存住宅状況調査は、建築士法上の建築物の調査に該当するため、建築士法第23条により、他人の求めに応じ報酬を得て調査業務を行う際は、建築士事務所について都道府県知事の登録を受けなければなりません。
「移行講習」と「新規講習」について
移行講習
すでに既存住宅現況検査技術者もしくは長期優良住宅化リフォーム推進事業のためのインスペクター講習団体の講習を修了した方の為の講習です。
瑕疵保険協会の同様の資格である、「既存住宅現況検査技術者」は、今後今回の講習に切り替えていくようです。また、旧制度と新制度の変更点は下記になります。
- 受講対象者は建築士(1級・2級・木造)に限られました。
- 資格有効期間が2年から3年になりました。
新規講習
既存住宅現況検査技術者や長期優良住宅化リフォーム推進事業のためのインスペクター講習団体の講習を受講していない方のための講習です。
既存住宅状況調査技術者の検索
講習実施団体のホームページで既存住宅状況調査技術者を検索することができます。※リンクのない団体は準備中です。
登録番号 | 講習実施機関の名称 |
---|---|
1 | 一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会 |
2 | 公益社団法人日本建築士会連合会 |
3 | 一般社団法人全日本ハウスインスペクター協会 |
4 | 一般社団法人 日本木造住宅産業協会 |
5 | 一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会 |
建物状況調査(インスペクション)
建物状況調査(インスペクション)は安心して中古住宅を購入するための制度です。
平成28年6月に宅地建物取引業法の一部を改正する法律(平成28年法律第56号)が、平成29年3月28日には宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令(平成29年国土交通省令第13号)並びに平成29年国土交通省告示第244号及び平成29年国土交通省告示第245号がそれぞれ公布され、平成30年4月1日より、既存住宅状況調査技術者の行う既存住宅状況調査の結果が、既存住宅の取引における重要事項説明の対象となります。
「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案(改正宅建業法)」には、「既存建物の取引における情報提供の充実」が掲げられ、既存住宅の売買にあたり、建物状況調査(インスペクション)の活用を促し、その結果を重要事項説明の対象に加えることで、消費者が安心して取引することができる市場環境を整備することが目的となります。
改正宅建業法における建物状況調査(インスペクション)は、「専門的な知見を有する者が、建物の基礎、外壁等に生じているひび割れや雨漏り等の劣化事象及び不具合事象の状況を目視、計測等により調査するもの」とされ、実務では専門の講習を受講した建築士(既存住宅状況調査技術者)が建物調査を実施します。調査対象部位は戸建住宅の場合であれば「構造耐力上主要な部分」および「雨水の浸入を防止する部分」です。調査内容が既存住宅売買瑕疵保険における検査内容とほぼ同等なので、単に調査を実施することを推進するのではなく、既存住宅売買瑕疵保険の利用も見据えた、検査と保証が一体となった運用が想定されています。建物状況調査は下記のような調査を実施します。
※詳細については下記関係告示と解説ページをご確認ください。
- 既存住宅状況調査技術者講習登録規程(平成二十九年国土交通省告示第八十一号)
- 様式第一(第三条第三項第三号関係)(Wordファイル)
- 様式第二(第七条第十三号関係)(Wordファイル)
- 既存住宅状況調査方法基準(平成二十九年国土交通省告示第八十二号)
- 既存住宅状況調査技術者講習登録規程の解説
- 既存住宅状況調査方法基準の解説
建物状況調査(インスペクション)のイメージ

基礎のひび割れ調査

建具廻りの劣化確認

換気口の周辺の確認

バルコニー防水層劣化状況

室内の床・柱の傾斜確認

ユニットバス点検口内の調査

小屋裏調査

床下調査(腐朽等)

建物外周調査
調査グッズ
建物状況調査(インスペクション)では、一般的に下記のような調査グッズが必要です(ほんの一例)。
- チェックシート
- メジャー(3m以上)
- デジタルカメラ
- 懐中電灯
- 携帯電話・スマートフォン(写真撮影用)+自撮り棒
- マスク
- 脚立
- ピアノ線
- 点検鏡
- クラックスケール
- 打診棒(点検棒)
- 双眼鏡
- 水平器
- 下げ振り
- レーザーレベル
- ドライバー
- リバウンドハンマー
- 鉄筋探査機
どのような調査が必要になるのか
建物状況調査(インスペクション)は、現場で足場等を組むことなく、少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる範囲や、移動が困難な家具等により隠ぺいされている対象部分を除く部分で行うこととされます。
また、国土交通省国土技術総合研究所「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書」の内容を踏まえ、木造住宅の接合部の仕様については、可能な限り調査することとされています。
なお、対象住宅が共同住宅等で共用部分の調査は、対象住戸の位置により共用部分の調査個所が決定される調査(対象住戸が共同住宅等の一部である場合に限る。以下「住戸型調査」といい、)と、住戸型調査以外の調査(以下「住棟型調査」といい、共用部分から調査できる部位、例えば基礎、外壁、屋根および共用廊下等)に分けられるようです。
対象住宅の種類ごとの調査対象範囲は下記の1)、2)の通りです。
1)一戸建ての住宅の調査対象範囲
構造および規模に係わらず、全ての階における構造耐力上主要な部分等を調査対象範囲とする。
2)共同住宅等の共用部分における調査対象範囲
<住戸型調査の調査範囲>
外壁、屋根のほか、対象住宅の主要な出入口から対象住戸に至る経路上および対象住戸から確認できる構造耐力上主要な部分等
<住棟型調査の調査範囲>
外壁、屋根のほか、原則として最下階、最上階ならびに最下階から数えて2階および3に7の自然数倍を加えた階(最上階を除く)にある構造耐力上主要な部分等
※瑕疵保険法人によっては既存住宅状況調査の調査範囲と既存住宅売買瑕疵保険の対象範囲が一致しない場合があり、また給排水管路や給排水設備、電気設備、ガス設備やシロアリの被害調査は依頼主の意向等に応じてオプション調査としての対応がのぞましいとされます。
既存住宅のお取り引きには建物状況調査(インスペクション)が欠かせません
これから住宅購入をお考えの方へ
建物状況調査(インスペクション)を案内する宅建業者選びが失敗しない中古住宅購入の第一歩です
中古住宅の取引において建物状況調査(インスペクション)は欠かせないプロセスです。中古住宅でも傷んだ部分を適切に修繕すれば、建物を長持ちさせることができるからです。
建築士による調査を踏まえて現況の性能を明らかにし、改修工事費用を踏まえた全体の資金計画に問題がなければ、中古住宅でも安全に取引することができます。
つまり、住宅購入者にとっては、建物の改修費用を明らかにすることが、建物状況調査(インスペクション)の目的と言い換えることもできます。
改正宅建業法では宅建業者が消費者に対して、媒介契約時に建物状況調査(インスペクション)のあっせんの有無について書面で表示することが義務となります。
インスペクションのあっせんをしてもらえる宅建業者を選択することが失敗しない中古住宅購入の第一歩になると言えるでしょう。
建物状況調査(インスペクション)を実施するタイミングが最も重要です
建物状況調査(インスペクション)を実施するタイミングや調査を依頼する建築士は、建物の状態やお取り引きの状況によって異なります。
例えば、築20年を超える木造住宅の購入を検討する場合は、単に既存住宅状況調査技術者であれば良いというのではなく、耐震診断や耐震改修の経験のある建築士を選択する必要があります。また、築20年を超える木造住宅は耐震改修工事が必要であると判定される可能性が高いため、可能であれば不動産売買契約前に耐震診断を含めたインスペクションを実施して、改修費用を把握することが望ましいです。
建物状況調査(インスペクション)の例
既存住宅売買瑕疵保険を希望する場合
売主が個人の場合は、瑕疵保険法人に検査会社登録を行っている建築士事務所へインスペクションを依頼する必要があります。売主が宅建業者の場合は、既存住宅売買瑕疵保険の手続きは売主である宅建業者が行います。
旧耐震(昭和56年6月以前)の木造戸建ての場合
耐震改修工事が必要になる可能性が非常に高く、また、耐震改修費用も高くなることが予想されるため、不動産売買契約前に耐震診断を含めたインスペクションを実施することをお勧めいたします。
比較的築浅の木造戸建ての場合
不動産売買契約を締結しないとその物件を購入することはできません。インスペクションには相応の時間が必要となるため、調査結果を待つ間に物件がほかの人に売れてしまうリスクがあります。
比較的築浅の物件は改修費用がそれほどかからないケースが多いので、雨漏れやひび割れなど目立った劣化事象がないのであれば、不動産売買契約を先行するという判断もあります。
築浅の物件は競合しがちですので、不動産仲介会社とよく相談して、インスペクションの実施時期を選択してください。
※インスペクションの結果思った以上の改修工事が必要と判定されても、そのことを理由に締結してしまった不動産売買契約を撤回することはできません。
大手ハウスメーカーが建築した建物の場合
大手ハウスメーカーなどが建築した認定工法と呼ばれる建物は、外部の建築士では性能評価ができません。建築したハウスメーカーにインスペクションを依頼することが必要になります。
RC・鉄骨など木造以外の建物の場合
非木造住宅のインスペクションは、その構造を専門に取り扱うことのできる建築士にインスペクションを依頼する必要があります。
住宅の売却をお考えの方へ
現況を明らかにすることが既存住宅取引のトラブルを回避する最善策です
建物状況調査(インスペクション)を実施すると、建物の劣化状況などが明らかになります。住宅購入者にとってのリスクは「どれだけ改修費用がかかるか」なので、建物の現況について情報開示することは住宅購入者に選択してもらう具体策となります。
住宅購入にあたって住宅ローン減税や既存住宅売買瑕疵保険など住宅取得支援制度が用意されており、住宅購入者にとっては価格に加え、これらの補助制度が利用できるかどうかも購入判断材料となります。
建物状況調査(インスペクション)を実施すると、仮に基準を満たしていなくても、どのような改修工事を行えば良いかが明らかになるので、住宅購入者の立場で考えるとそういった情報を開示してもらえる物件の方が選択しやすい物件となります。
耐震基準を満たしていて築20年以上でも住宅ローン減税の対象になったり、瑕疵保険の検査基準を満たすため改修工事なしで既存住宅売買瑕疵保険に加入できる物件は相応の交渉力が期待できますが、多くの物件はマイナス情報の開示となるため、価格交渉の材料としてではなく、早く売却するための対策として建物状況調査(インスペクション)を活用することをお勧めします。
不動産仲介会社の方へ
建物や取引の状況にあわせて適切な建築士を手配する必要があります
一般的に建物状況調査(インスペクション)は有償のサービスです。建築士を手配したものの、現地調査で調査不可の物件であることが判明した場合など、費用や時間が無駄になることが懸念されます。
建物の工法や建築年月、住宅ローン減税を希望するかどうかなどで、おおよその判断を行うことはできるのですが、建物状況調査(インスペクション)が不慣れな場合は誤った判断をしてしまう恐れがあります。
首都圏既存住宅流通推進協議会が運営する既存住宅アドバイザー講習会を受講すると、建物状況調査(インスペクション)のための前捌きが簡単に行える「既存住宅アドバイザー調査ツール」が利用できるようになります。
お客様とのトラブルを回避し、無駄な手間を省くためにも、このようなツールの利用をお勧めします。
「瑕疵保険」「耐震」「フラット」をワンストップで判断 リニュアル仲介のインスペクションをご利用ください
中古住宅の取引では、住宅ローン減税や既存住宅売買瑕疵保険など各種住宅取得支援制度が用意されています。
これらの制度をうまく利用するには、取引の適切なタイミングで建物インスペクションを実施する必要があります。
例えば、築20年以上の木造住宅を購入する際に住宅ローン減税を利用したい場合は耐震診断が必要になります。フラット35を利用したい場合は、フラット35適合証明技術者による建物調査が必要になります。
これらの調査を個別に手配するのは、時間やコストの面で現実的ではありません。1回の検査ですべて判定してもらうのが理想的です。
現在運用されている住宅取得支援制度で必要な要素は「瑕疵保険」「耐震」「フラット」の3つです。これらの調査をワンストップで実施することで手間とコストを大幅にカットすることができます。
また、中古住宅の購入時にリフォームを実施される方が多いのですが、この時のリフォーム会社にも条件があり、リフォーム会社の選択を誤ると各種制度が利用できなくなる恐れがあります。
既存住宅流通時に求められる工事会社の要件
- 建設業許可を取得している
- 建築士事務所登録を行っている
- 既存住宅売買瑕疵保険の検査会社登録を行っている
- 既存住宅状況調査技術者が在籍している
- 耐震基準適合証明書の発行実績がある
- フラット35適合証明技術者が在籍している
リニュアル仲介をご利用いただくと、上記条件を満たした建築士事務所を適切なタイミングで手配いたします。
各種住宅取得支援制度の利用可否だけでなく、利用するための手続きや必要な改修工事費用を含めて、住宅購入判断材料として情報提供いたします。
「瑕疵保険」「耐震」「フラット」をワンストップで判断するのがリニュアル仲介のインスペクションの特徴です。
また、改修費用やリフォーム費用を物件代金とあわせて一つの住宅ローンとして組むことができます。中古住宅購入をご検討の場合は、リニュアル仲介へお気軽にお問い合わせください。
<参考>お客様の声
<参考>発生しうる不具合事象について
切妻屋根破風・屋根スレート葺き端部のシーリングの劣化
<建物状況調査時のポイント>
建物状況調査にあたっては、小屋裏に雨漏り跡を確認できる可能性が高く、注意して目視検査を行うことが大切です。
また、屋根からの漏水では軒裏天井に雨漏りの跡が発生しやすい為、注意して目視検査を行う事がのぞましいとされます。
その他、築年数が古い場合は過去に修繕の履歴があるかのヒアリングも併せて行うことが大切です。
トップライト(天窓)水下側の水切り金物と屋根葺き材との取り合い部分に生じた隙間による雨水の侵入
<建物状況調査時のポイント>
屋根からの突出物(トップライト・煙突など)がある場合、「突出物とその周囲の屋根仕上げ材との取り合い部分の防水状況」を重点的に目視検査する必要があります。
また、正確な調査においては足場の設置が必要となる為、「突出物下部に位置する天井裏や天井仕上げ」や「2階開口部、バルコニーからの下屋」の確認をすることも重要なポイントです。
バルコニー手すり笠木のジョイントからの雨水の侵入
<建物状況調査時のポイント>
バルコニーにある手すりは、笠木同士のジョイント、笠木と壁面との取り合い等に不具合の原因があることが多いので、笠木天端をビス止めしている場合は注意が必要です。
雨水の侵入の疑いがある場合は、立ち上がり壁面の触診、バルコニー軒裏の目視を併せて実施することがのぞましいとされます。
出窓と外壁の取り合い部分のシーリングの劣化による雨水の侵入
<建物状況調査時のポイント>
出窓と外壁の取り合い部分では隙間が生じる可能性が高く、また既製品でない造作による出窓は施工にばらつきがある場合もあり、注意して目視検査をする必要があります。
特に、外壁に突出物(出窓や庇等)が設けられている場合は、点検鏡等を活用して、2階バルコニー等からの覗き込みシーリングの破断等有無を重点的に目視検査することが重要です。