既存住宅流通を促進するために、国が新しく始めようとしているのが「安心R住宅」制度です。
耐震性や瑕疵保険など一定の基準を満たした住宅に対して国がお墨付きを与えるような制度で、中古住宅のマイナスイメージを払しょくする狙いがあります。

・既存住宅の流通促進に向けて、「不安」「汚い」「わからない」といった従来のいわゆる「中古住宅」のマイナスイメージを払拭し、「住みたい」「買いたい」既存住宅を選択できるようにする。

・このため、耐震性等の品質を備え、消費者のニーズに沿ったリフォームの実施等について適切な情報提供が行われる既存住宅に対して、国の関与のもとで商標付与を行うしくみ(=『安心R住宅(仮称)』)を創設する。

安心R住宅の要件

不安の払拭

耐震性

耐震性を有すること※1
※1 下記いずれかを満たす住宅
・昭和56年6月1日以降に着工したもの
・昭和56年5月31日以前に着工したもので、耐震診断や耐震改修を実施し、広告時点において耐震性が確認されているもの

構造上の不具合・雨漏り

建物状況調査(インスペクション)を実施し、構造上の不具合及び雨漏りが認められず※2、購入予定者の求めに応じて既存住宅売買瑕疵保険を付保できる用意がなされているものであること※3
※2
・建物状況調査(インスペクション)の結果、構造上の不具合あるいは雨漏りが認められた場合で、広告時点において当該箇所の改修が完了しているものを含む
・既存住宅売買瑕疵保険の検査基準に適合していることにより代替可
※3 広告時点において、既存住宅売買瑕疵保険の申し込みが受理されている場合はその旨を情報提供すること

「汚い」イメージの払拭

事業者団体毎にリフォームの基準を定め、基準に合致したリフォームを実施し、従来の既存住宅の「汚い」イメージが払拭されていること※4リフォームを実施していない場合は、参考価格を含むリフォームプランの情報を付すこと
※4
・部位に応じて原則的な取替時期等の数値や、チェック項目等を参考までに提供することを検討
・建築後極めて短いものなどはリフォーム不要

外装、主たる内装、水廻り※5の現況の写真等を情報提供すること
※5 キッチン、浴室、洗面所、トイレ

「わからない」イメージの払拭

下記について情報収集を行い、広告時点において情報の有無等を開示のうえ、購入検討者の求めに応じて詳細情報の開示を行うこと

「有」「無」「不明」の開示が必要な項目

新築時の情報

適法性に関する情報、認定等に関する情報、住宅性能評価に関する情報、設計図書に関する情報

過去の維持管理の履歴に関する情報<戸建て住宅又は共同住宅専有部分>

維持管理計画に関する情報、点検・診断の履歴に関する情報(給排水管・設備の検査、定期保守点検等)、防蟻に関する情報<戸建て住宅のみ>、修繕に関する情報、リフォーム・改修に関する情報

保険・保証に関する情報

構造上の不具合及び雨漏りに関する保険・保証の情報、その他の保険・保証の情報(給排水管・設備・リフォーム工事に関するもの、シロアリに関するもの<戸建て住宅のみ>等)

省エネに関する情報

断熱性能に関する情報、開口部(窓)の断熱に関する情報、その他省エネ設備等に関する情報

共同住宅の共用部分の管理に関する情報

管理規約に関する情報、修繕積立金の積立状況に関する情報、大規模修繕計画に関する情報、修繕履歴に関する情報

その他

団体毎に任意で実施するその他流通支援の取り組み等の情報

安心R住宅の要件に対する懸念事項(2017年10月時点)

2017年10月時点で、これから国による説明会が開催される段階なので、下記の事項は筆者の個人的な見解です。

耐震性

耐震性は「新耐震」と定められました。ここに至るまでの議論で2000年基準という意見もあったようですが、現場の波に飲まれてしまったようです。
残念なことに「安心R住宅」でも住宅ローン減税の築後年数要件が緩和されない物件が出てしまうようです。
消費者のわかりやすさを目的とした制度なだけに、国の制度において複数の基準が残ってしまうのは残念です。
また、基準では昭和56年6月以降に着工とありますが、どのような方法で着工日を証明するのかは今後の情報を待たなければ判断できません。
(恐らく既存住宅売買瑕疵保険のように、建築確認済証などが用いられると思いますが、ない物件の取り扱いが非常に気になります)

※補足※築年数と耐震性

大きな地震被害が発生する度に建築基準法は大きく改正されてきました。木造戸建てで注意すべき建築年度は下記の通りです。

昭和56年5月以前(旧耐震)

昭和53年6月に発生した宮城県沖地震の教訓から、昭和56年6月に耐震性に関する建築基準法の大きな改正がありました。
昭和56年5月以前に建築確認申請を行った物件は「旧耐震」と呼ばれます。
必要な壁の強さが足りず、築年数から劣化の進行も懸念され、多額の改修費用が必要になるケースが多い年代です。

昭和56年6月~平成12年5月

昭和56年6月以降を「新耐震」と呼びますが、平成7年1月に発生した阪神淡路大震災の教訓から、平成12年6月に耐震性に関する建築基準法の改正がありました。 従って、「新耐震」の物件でも耐震診断を行うと改修が必要と判定される可能性のある年代になります。

築20年以内

住宅ローン減税には築後年数要件が定められており、築20年を超える木造住宅は住宅ローン減税の対象外となってしまいます。
この築後年数要件を緩和する方法として耐震基準適合証明書の取得がありますが、前述の通り「新耐震」であっても耐震改修が必要と判定される可能性があるので注意が必要です。
この築20年の基準が異質で、「安心R住宅」なのに住宅ローン減税が利用できないという事態を発生させてしまう要因となってしまいます。
同じ「耐震」を扱う基準なので、消費者の誤認がないか懸念されます。

以上のように建築年月と築年数という二つの判断基準が生じてしまうので、混同しないように注意が必要です。
特に「安心R住宅=住宅ローン減税が利用できる」ではないのでご注意ください。

構造上の不具合・雨漏り

基準を読む限りでは売却にあたって売主がインスペクションを実施しなければならないと読めますが、実務の運用ではいくつかの問題が懸念されます。

劣化改修工事を売主が実施する必要がある

構造上の不具合及び雨漏りの検査(一般的にインスペクションと呼ばれます)は、主に劣化の調査になるため、築年数に応じて基準を満たさない可能性が出てきて、改修工事が必要となります。
基準にも広告時点において当該箇所の改修が完了していることと記載があるので、売主側で性能を確保して取引しましょうと読めますが、現在の中古住宅流通の現場では、特に個人間売買の場合、リフォームは買主が実施することが多いので、実務で問題が出てきそうです。
劣化の有無は調査してみないと何とも言えないのが実情なので、実務では劣化改修工事を前提に進めた方が良さそうです。

既存住宅売買瑕疵保険の検査基準に適合していることにより代替可?

瑕疵保険の制度で、事前にインスペクションを実施する「事前現況検査」という制度はありますが、後述の「誰が瑕疵保険を付保するのか?」という問題が生じてしまいます。
仮に検査結果だけで良い場合、かなり穿った見方になりますが、売却時はいい加減な検査で合格が出ていて、後から保険を掛けようと思ったら検査不合格になった、という事態も考えられなくはないです。
この制度は中古住宅の不安を払拭することが目的の制度なので、制度に抜け目があるのは容認できないですね。

誰が瑕疵保険を付保するのか?

個人間売買の場合、売主でも買主でもなく、検査会社が保険に加入します。売主が必要な改修工事を実施して瑕疵保険も手配して取引すればよいと読めるのですが、問題になるのが買主が実施するリフォーム内容です。
瑕疵保険の保証範囲は構造上の不具合及び雨漏りですが、買主が所有権移転後に間取り変更など構造にかかるリフォームを実施してしまうと、保険の対象外となる可能性が高くなります。
瑕疵保険法人によっては、電気・ガス・給排水など保証の範囲が広い場合があり、単なる設備交換と思っても、実は保証範囲に抵触してしまう恐れがあります。
この問題を解決するのが引渡し後リフォーム特約です。所有権移転後に保険申込時に予定されたリフォームも含めて保証しましょう、という内容になります。
保険申込時にリフォームがある程度目途がたっていないといけないので、注意書き3にある「広告時点で保険の申し込みが受理されている」というのも考えにくくなります。

「汚い」イメージの払拭

他の基準は団体によってあまり違いが生じにくい、具体的なものなのですが、「汚い」の基準は、事業者団体毎にリフォームの基準を定める、とあって、同じ安心R住宅でも団体によって基準が異なってしまう要因となることが懸念されます。
「部位に応じて原則的な取替時期等の数値やチェック項目等を参考までに提供する」「外装、主たる内装、水廻りの現況の写真等を情報提供する」とあるので、事業者団体の独自基準によらず、安心R住宅としてリフォームの基準を作ってしまった方が良いのではないかと思います。

「わからない」イメージの払拭

これまで中古取引でこういった情報が明らかになることはほとんどなかったので、情報開示の基準が設けられることは非常に意義があると思います。
ただ、書類の有無だけでなく「わからない」を入れてしまっている時点で、基準ではなく単なる情報開示でしか機能しなくなってしまっています。
必要な書類も具体的にされているので、ない場合は別の書類を作成しなければならないなど、代替案を用意しないと安心して購入できる基準にはならないと思います。
(書類が全部「無」の安心R住宅ってかなり無理があると思います)

情報開示の方法としては評価できるものの、実際の取引では注意が必要

前述の耐震性のように、同じ国の制度ながら基準にブレが生じています。
そもそも売主側が実施したインスペクションの内容を買主がそのまま鵜呑みにするのもおかしな話です。
やはり中古住宅を安心して取引するには買主も建築士を手配してインスペクションを実施した方が良いでしょう。
※アメリカの取引では売主がインスペクション情報を開示しますが、買主もインスペクターを雇って開示された情報が正しいか判断してもらうそうです。
また、安心R住宅は保証制度ではありません。瑕疵保険は必須のようですので、瑕疵保険の範囲は保証されますが、範囲を超える部分は自己責任です。
国の制度だからといって過信せず、必要な情報はきちんと検証してから購入する必要があります。

本記事に記載したように、安心R住宅だからといって、建物の価格が上がる理由にはならないと思います。
「この物件は安心R住宅なので、相場よりちょっと高いです」「安心R住宅だから心配ありません」なんで宅建事業者の声が聞こえてきそうですが、そこまでの基準ではないことを確認しておいた方が良いでしょう。
※別の制度で長期優良住宅というものがありますが、長期優良住宅はかなり高い性能基準を持っているので、別格と言えるでしょう。

安心R住宅は意味がないのか?

新しく始まる制度なのでいろいろと問題があるのはいたしかたないと思います。
それでも、著しく消費者にとって不利な取引を強いられる現状の不動産取引に比べたら、ある程度とは言え情報提供が促される仕組みは歓迎です。
安心R住宅を取らないと売却できませんよ、と言われるくらいの状況に発展してもらいたいと願います。
ただ、願わくば物件にお墨付きを与える制度は限界があると思いますので、取引にあたって売主にも仲介会社にも積極的な情報提供を課す、瑕疵保険を義務とする、耐震化を義務とするなど、中古住宅の取引ルールの方に目を向けていただければより理想的な取引が実現できそうです。

安心して中古住宅を取引するためには(買主編)

これから中古住宅を購入する場合、原則として不動産売買契約までに建築士によるインスペクションを実施して必要な改修費用を確認してから取引を進めることが大切です。
築浅でたくさん内見者がいるような人気物件の場合は契約を優先することも考えられますが、不動産売買契約後に実施したインスペクションで想定以上の改修費用が必要だと判明しても、そのことを理由に不動産売買契約を撤回することができないので、安心して取引を進めるには契約前のインスペクションを推奨します。
また、中古住宅購入時に活用できる各種住宅取得支援制度が用意されていますが、手続きを誤ると利用できなくなることも考えられるので、各種住宅取得支援制度に詳しい不動産仲介会社に取引を依頼することが大切です。

安心して中古住宅を取引するためには(売主編)

インスペクションの実施と積極的な情報開示をお勧めします。
悪いところを隠したところで、後から調べればわかることです。
買主は不動産売買契約前後であまりスケジュールに余裕がありません。例えインスペクションで劣化を指摘されたとしても、改修費用がどれくらいかかるのかを提示できれば、買主が具体的に検討することができます。
ただし、売却にあたってリフォームを実施する場合は注意が必要です。
例えば耐震改修工事は住宅ローン減税という具体的なメリットがあるので、建物価格を上乗せする要因にはなるかもしれませんが、キッチンやお風呂を交換したところで、買主の好みに合わなければ買ってもらえないだけです。
事業者による買取再販と違って、大規模なリフォームは現実的ではないので、コストがあまりかけられないのであれば、中途半端にリフォームしても効果がないということも考えられます。
また、不動産の価値は「立地」が全てです。どれだけ豪華なリフォームをしたとしても、人が集まらない立地では売却は成立しません。
売買が成立したら瑕疵保険を活用することをお勧めします。
瑕疵保険は一見買主にしかメリットがない制度に見えますが違います。雨漏れなどの問題が発生した場合に問題解決する資力を確保することが目的で、瑕疵保険を利用するということは売主も瑕疵のリスクを軽減できるからです。

<まとめ>安全な取引には専門家の手助けが必要です

安心R住宅はその制度だけで消費者が安心して取引できる環境とは言えない状況と言えます。
中古住宅の取引でトラブルに巻き込まれないためには、安心して取引を任せることができる専門家に仲介を依頼することが大切です。
不動産の取引には宅建士の存在は欠かせませんが、単に宅建士であれば良いのではなく、中古の取引に詳しい宅建士に依頼する必要があります。
また、建築士やリフォーム会社との連携も欠かせません。
ワンストップで任せられる事業者選びこそが失敗しない住宅購入の第一歩です。

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